ティール組織はなぜ優れているのか
経営者の方との飲んだときにティール組織についての話になりました。
そのときふわっと考えていたことがちゃんとまとまってなかったなーと思ったので、改めてまとめてみたいと思います。
基本的には「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」を元に考えていますが、本に書かれていない文脈も多く汲み取っているので、あくまで「dorarepの考えたこと」として読み進めてください!
導入
書籍「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」では、構成員の発達段階に応じ、組織の最適な変わる旨を述べています。
発達段階とは成人発達理論における概念で、簡単に言えば人間力のようなものです。
つまり、簡単にいうと「メンバーの人間力があがると最適な組織形態も変わってくるよね」という感じですね。
その観点においては、メンバーの発達段階に見合わない組織の構造だけ真似てもうまくいくものではないともいえます。
成人発達理論とは
ティール組織が参照している成人発達理論は、具体的には以下のようなものです。
- 具体的思考:最初の発達段階
- 利己的:他者は自分のための道具。感情的。
- 他者依存:他者や組織に依存。受動的。
- 自己主導:自分自身の価値観を重視。成長意欲。
- 自己変容:価値観を更新していく。他者との相互発達。
利己的な人、依存的な人が自分の価値観を信じ、他者を尊重するようになると、「人間として成長した」というのは納得感がありますよね。
ティール組織への発展
成人発達理論を組織に当てはめると、以下のようになります。
- レッド組織:力による統治
- アンバー組織:権力・階級による組織
- オレンジ組織:実力主義・成果主義の組織
- グリーン組織:成果より主体性を重視するボトムアップ組織
- ティール組織:メンバー同士が信頼に基づき変化していく組織
たとえば自分自身の価値観を重視している人にとって、「成果を出すこと」だけを目的視するのは非常に苦になることです。
実際に売上だけを目標に手段を問わない企業に勤めたことがありますが、時には顧客を騙すようなこともあり、正義感との葛藤に悩む人も多くいました。
一方で依存的な人にとっては、画一的な価値観を組織から与えられるのは心地よいものになるでしょう。
そしてそういった人が主体性を重視する組織に属すると、「自分の意見が出せない」と悩むことになるかもしれません。
このように中の人の発達段階に応じて組織の発達段階が決まるとも言えますし、組織の発達段階に応じてその発達段階の人たちが集まってくるとも言えるでしょう。
成人発達理論の組織への当てはめに対する考え
私個人としてまず思うのは、これは西洋視点の一元的な考え方であるという点です。
恐怖による支配、階級による支配、成果主義、そして東洋文化を取り入れボトムアップ組織へといった具合に、西洋の辿った組織の道筋を「組織の進化」として単純化しています。
反対に日本の視点でいうと、「会社員は家族だ」という価値観のもと終身雇用、メンバーシップ雇用などを進めてきましたが、最近は西洋の実力主義的な側面を取り入れ始めました。
つまり西洋は東洋文化を取り入れ、東洋は西洋文化を取り入れてきたのが、近代の組織史ともいえます。
たとえば日本だと「飲みニケーション」や「休日に会社のイベント」は時代遅れな価値観として語られますが、アメリカだとむしろ増えてきてるといいます。
ティール組織に対して「昔の日本企業っぽい」と既視感を覚える経営者がいるのも、こうした背景が原因でしょう。
つまり単純に西洋の組織史を元に、ポケモン的に「X組織が進化したらY組織になる」と捉えるのには疑問を感じます。
とはいえ私自身はフラットに各組織を比べたとしても、現代における組織形態として、多くの場合においてティールが最適であると考えています。
各組織におけるモチベーションの源泉
まず各組織形態について論ずるにあたり、それぞれの動機づけの部分について注目してみたいと思います。
というのも、各個人がなんのために働いているのかが組織の核となる部分だからです。
たとえばよく「ティール組織=フラットな組織」と抽象化してる人もいますが、フラットな組織は手段でしかなく、より根幹は動機づけのところにあります。
動機づけの観点から注目すると、各組織は以下のように説明できます。
- レッド組織:恐怖
- アンバー組織:権力、決まり
- オレンジ組織:報酬
- グリーン組織:ビジョン
- ティール組織:内発性
ではそれぞれにつき、詳しくみていきましょう。
レッド組織
まずレッド組織は恐怖による支配です。
レッド組織においては、「やらないと怒られる」「やらないと給料下げられる」などの、負の感情から逃れるために命令に従います。
とはいえ恐怖による支配から人々は反骨心を覚えるため、サボるし、反抗します。
したがってこうした組織の経営者は「社員は信用ならないもの」と捉え、監視体制を強化しようとします。
AIにより監視体制を徹底化した中華人民共和国はもっとも成功したレッド組織と言えるかもしれません。
レッド組織の問題点
現在はSNSなどで悪評は広まりやすく、レッド組織に良い人材が集まるとも思えません。
また怒られないように仕事する=言われたこと以外しないため、主体的にものを考える仕事には向きません。
AIによって単純作業が代替される現代において、レッド組織が最適になるケースはほぼないでしょう。
アンバー組織
アンバー組織は、権力や決まりによる統治です。
つまり「ただ決まり通りに日常を過ごせば良い」世界観であり、ある意味楽な生き方とも言えるかもしれません。
アンバー組織は割と現代日本でも多く残っていて、「今までこうしてたからこうする」という意思決定はいまだに多くみられます。
アンバー組織の問題点
アンバー組織の問題点は「決まりが変化しづらい」ため、「決まりが容易に時代遅れになる」という点です。
確かに時代によっては安定してる組織になり得たでしょう。
しかし変化の早い現代において、アンバー組織が生き残れるとは思えません。
オレンジ組織
オレンジ組織は報酬による統治です。
上司は部下に目標を与え、目標達成に対しての手段を委ねます。
そしてその達成度に応じ報酬を与えることで、自律的な行動を促します。
オレンジ組織に向いてる人
採点基準があり、その中で優劣が評価される価値観は現代学校教育に近いかもしれません。
特に優等生的人生を送ってきた人ほど、こうした成果主義的価値観は馴染みやすいものでしょう。
最適な目標設定さえ行えば主体的な行動を促すことができ、またメンバー自身も自由に意思決定できるためモチベーション高く働くことができます。
オレンジ組織の問題点
一方で、実力主義的組織は、「報酬を得るために手段を厭わない」という欠点があります。
有限な報酬を奪い合うため組織内のライバルと敵対し、数値をよく見せるために本質的に組織の利益にならない行動をとります。
たとえば「他チームの優秀なメンバーを自チームに引き抜き、自チームの成果・評価をあげる」のような社内政治がそうです。
弱みを見せることができないため、次のような行動を取ることもあるでしょう。
- 分かったふりをする
- 失敗を恐れて行動しない
- 部下のせいにする
上司から見ると一見綺麗に回ってるように見えても、その裏でドロドロの攻防にエネルギーが注がれてることが多くあるのです。
報酬というわかりやすい動機づけで行動を規定できるため現実的な一方で、理想形ではないというのが私の考えです。
グリーン組織
グリーン組織はビジョンに基づいた組織です。
「組織のビジョンに共感しました!」ってやつですね。
もちろんただビジョンがあれば良い訳ではなく、メンバーがビジョンに共感し、そのビジョンを達成したいと本気で思って行動している必要があります。
動機付けが不要
グリーン組織は外部による動機づけが不要で、各々の自主的な行動に任せることができます。
たとえば「甲子園優勝したい!」とみんなが思ってる野球部に、「練習に来ないと罰を与える」「点を取ったら報酬を与える」といったことは不要でしょう。
そしてグリーン組織は同じビジョン達成を目指す仲間同士なので、自然と協力関係が芽生えやすいものです。
グリーン組織の問題点
ただ一方で、真の意味でこの組織を作るのは難しいようにも感じます。
たとえば「カンボジアから貧困をなくしたい」というビジョンに本当に共感し人が集まってる組織もある一方で、多くの組織のビジョンは形骸化しています。
私としては「上場」「甲子園優勝」「売上世界一」のように人間の欲望に紐づいた分かりやすいビジョンをメンバー間で共有するのが現実的な落としどころに思います。
ティール組織
ティール組織は内発性に基づいた組織です。
内発性は内から湧き出る動機で、よく自発性との対比で使われます。
- 内発性:内から湧き出る動機。行動自体が目的。
- 自発性:外部に依存した動機。目的達成のための行動。
たとえば「エンジニアになってお金持ちになりたい!」「エンジニアになってモテたい!」は自発性です。
「プログラミングは楽しい!」は内発性です。
自発性の場合は外部要因に左右されるので、外部要因次第でその行動を辞めてしまいます。
「エンジニアは供給過多で給料が下がった」「エンジニアはかっこ悪い」のような状況になれば、自発性に基づいた人たちはすぐに職を変えることでしょう。
内発性による動機付け
内発性に基づけば動機づけも必要なくモチベーション高く働けるのは当たり前であり、それが良い組織になり得るのは想像に易いです。
一方で、それができれば苦労しないよというのが現実的な意見ではないでしょうか?
内発性
「自分探しの旅」とも言いますが、「自分が何をしたいか分からない」なんて人がほとんどです。
自分が内発性だと思ってたことが、実は「これをすると周りから認められるからやってるだけだった」なんてこともあります。
たとえば本当に小説が大好きな小説家だとしても、無人島で誰も見ない小説を延々と書き続けることができるかといえば、怪しいでしょう。
内発性で動く組織を作るどころか、そもそも自分は何に内発性を感じるのかを知ることすら難しいのが実際のところです。
ティール組織での対応
ティール組織では、MTGの前に瞑想の時間を取るなどの施策により自分の感情に向き合う時間を大切にします。
ただ正直なところ身の回りの組織で、「MTG前に瞑想の時間を取りましょう」が正当化される状況はイメージできません。
ただ理論上は、ティール組織を作るために、何かしら自分に向き合うことを促す必要があるでしょう。
身体の緊張を解くこと
内面に向き合うためには、身体の緊張を解くことが重要なファクターです。
というのも、身体感覚を感じるためには緊張から解き放たれる必要があるからです。
交感神経優位の、いわゆる「頭に血がのぼる」状態になると思考に意識が集中してしまいます。
たとえばアドレナリンがバリバリ出て「残業いくらでもできます!」って状態は気持ちが良いものですが、身体のアラートに気づきにくくなってしまうのです。
脱緊張と心理的安全性
組織としてはいかに弛緩した状態にメンバーを導いていくのかが重要であり、そのために「競争しない」「ありのままの自分を見せられる(弱みを見せられる)」ことをティールでは推奨してるのです。
最近は心理的安全性がバズワードにもなっていますが、これもメンバーを緊張状態にしないための手段ともいえるでしょう。
ただ一方で弛緩した状態に持っていくことは個々人の技術でもあり、組織としてそれを補助することはできても、最後のところでは個々人の資質に依存してしまいます。
身体の緊張を解く技術
個人の技術として「緊張を解く」を捉えたときに、近しい概念として以下のようなものが挙げられます。
- マインドフルな状態
- 変性意識状態
- サウナ界隈で言われる「ととのう」状態
- システマでいう「キープ・カーム」な状態
- 自律神経のバランスが取れている状態
個人的にオススメしたいのが、「サウナ+システマ呼吸法+瞑想」です。
サウナは強制的に身体をマインドフルな状態に持っていくことができます。そこに技術としてのシステマ呼吸法と、瞑想を加えることで、それを補助します。
ただ個人としてこれができるようになったところで、組織としてメンバー全体のレベルがあげられる訳ではありません。
とはいえ、トップの発達段階を超える組織は作れないため、まずは個人としてこれを極めることが第一歩になります。
おわりに
私自身この先の景色を見てないため、本当の意味で完成されたティール組織は存在するのかわかりません。
しかし組織としてはそこを目指すべきであり、そのための道筋も存在すると考えています。