なぜ報告しないんだ!?心理的安全性を確保する組織の作り方
心理的安全性とは
心理的安全性とは、「対人リスクをとっても問題ないという信念がチームで共有されている状態」や、「自分のアイデンティティにネガティブな影響を与える恐れなく、自己表現しながら働くことができる状態」のことを刺します。
簡単にいうと、言いたいことが言いやすいし、自分らしく働くことができる環境!ってことですね。
Googleが2012年に実施した大規模労働改革プロジェクトにおいて『心理的安全性は成功するチームの構築にもっとも重要なものである』と発表したことから、近年注目が集まっている考え方です。
心理的安全がないとなぜダメなの?
心理的安全性がない環境は対人リスクを気にして課題にしっかり向き合うことができません。
要するに「臭いものには蓋をする」という発想になりがちなんですね。
例えば仕事で失敗しても怒られるのが怖くて黙っていたり、先輩が明らかにチームにとって不利益な行動をとっていても気を遣って何も言えなかったりと言った状況では、課題を解決しないまま残し続けることになります。
つまり心理的安全性がないと課題に向き合うことができず、解決されないまま積み重なっていきます。
そして最終的にそれが大きな問題になったり、誰かの感情を爆発させたりしてしまうのです。
アットホームな環境
では心理的安全性がある環境ってどんな環境なのでしょうか?
一見すると「アットホームな、みんなが仲良い環境のことなのかな?」って思いますよね。
しかし「仲良い」と「言いたいことが言える」は必ずしも一致しません。
これは、お互いに対して気持ち良いことしか言わないことで仲の良さを形成していることもあるからです。
例えば「どんなに業務外でイベントをして、仲が良い雰囲気」が作れたとしても、「上司に怒られるのが怖くて仕事のミスを黙っている」ようでは意味がないですよね。
つまり、時にはお互いのダメな点も言い合えるような親友のような関係性でないといけないんですね。
みんなが言いたいことを言い合ってる環境
ではみんなが言いたいことを言い合ってるような環境は心理的安全性が高いのでしょうか?
実は、そんなこともないんです。
言いたいことが言えるとは裏を返せば、こんな言葉が蔓延している環境にもなり得ます。
これは見るからに心理的安全な環境とは言えなさそうですよね。
例えば「発言したら周りから攻撃される」という経験をしたら、言われた側は「発言したくない」と言う気持ちが芽生えてしまうのではないでしょうか。
こうなると、その人にとって心理的安全な環境とは言えなくなってしまいます。
つまり心理的安全な環境とは、ただ言いたいことを言えるようにするだけではダメです。
言いたいことを言った結果、心理的安全を失う人が現れないようにしないと、結果として言いたいことが言えない環境になってしまうのです。
そんな「言いたいことが言える環境が創り出す世界」について経験則から、書き出してみます。
他者への攻撃が連鎖する
人は自分の負の状況を他者への攻撃で埋めようとしてします。
例えば仕事で失敗したときに、「悪いのはお前だ」と言ってしまうことは良くありますよね。
同期で先に出世した人に対して「あいつは上司に媚び売ってた」なんて言ってしまったことはないでしょうか。
もちろんこうした感情はどんな状況下でも起こりますが、言いたいことが言えるとこれが相手に直接向かいます。
そうすると言われた側は、攻撃されたという負の状況から避けるために、それを誰かへの攻撃に変換します。
そうして負の感情が連鎖していくのです。
つまり言いたいことが言いあえると、相手への攻撃が蔓延する環境になり得るということです。
失敗を避け、挑戦しなくなっていく
負の感情は、何か新しい行動に対して向きがちです。
といったものですね。
新しい行動はエネルギーが必要なものであり、「やらないほうが楽」なのは間違いありません。
それなのに新しい行動を取った人に対して負の意見が集まると、当人にとって「苦労した挙句に周りの人から文句を言われる」といった結果になります。
結果として、失敗を恐れ挑戦しづらい環境になっていくのです。
声の小さい人、実力のない人が淘汰されていく
会議では「実力のある人」、もしくは「声の大きい人」の意見がどうしても通りやすくなりますよね。
下手すると、実力がない人が発言すると「何言ってるんだ?」といった空気感すら形成されるかもしれません。
環境に蔓延した負の感情が「声の小さい人」や「実力の劣る人」に集中することもあるでしょう。
それが続くと「声の小さい人」「実力の劣る人」は自信を失っていき、だんだんと「自分が喋っても無駄なんだ」と言う気持ちが芽生えてきます。
結果として、「声の大きい人」「実力のある人」のみが好き放題喋ることができ、「声の小さい人」「実力の劣る人」は心理的安全性を失っていくようになるんですね。
言いたいことを言えてる側から見ると「別に何言っても良いし、良い意見なら受け入れるつもりだ。意欲失われるのは当人が弱いからだ。」と感じるかもしれません。
しかし、そうなり得るリスクがあるということは間違いありません。
心理的安全な環境
結局、心理的安全な環境とはどういうものなのでしょうか。
まず「言いたいことが言える」というのは前提としてあります。
しかしそれだけだと「言いたいことが言えない人が出てくる」のも先ほど書いたとおりです。
言いたいことが言えるということは、「自由」ということであり、つまりは「扱う人次第」ということでもあります。
つまり「自由」であるが故に、個々が適切な行動選択ができる必要があるのです。
適切な行動選択するためには、「他者の気持ちを汲み取れる」「感情をコントロールできる」「自らの負の状況を他者への攻撃に変換せず、ポジティブなエネルギーに変えることができる」などが必要になります。
いわゆるEQ(心の知能指数)が高い人たちのことです。
EQについては長くなってしまうため、この記事での説明は省きます。
まとめ
心理的安全な環境を作るには以下の2つが必要です。
- 言いたいことが言える環境を作る
- 適切な行動選択できる人たち(EQがが高い人たち)で構成されている
適切な行動選択できる人たちとは
- 他者の気持ちを汲み取れる
- 感情をコントロールできる
- 自らの負の状況を他者への攻撃に変換せず、ポジティブなエネルギーに変えることができる
心理的安全性を作り出すための方法
それではどのようにして心理的安全性のある組織は作れるのでしょうか。
各企業が心理的安全性を得るために行った施策を、ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現などから紹介していきます。
言いたいことが言える環境を作るための施策
承認する
承認とは、自分の存在が認められた状態のことです。
例えば「君がいてくれたおかげでプロジェクトが成功したよ」なんてのはもちろん、SNSのいいねボタンも承認の一つです。
承認は大きく分けて「存在承認」「成果承認」「成長承認」の3つがあります。
- 存在承認:存在を認めること
- 成果承認:成果を認めること
- 成長承認:プロセスを認めること
具体的には下記のような行動で承認をすることができます。
- 一緒に食事に行く
- 挨拶する
- 目があったら笑顔になる
- 話をちゃんと聞く
- 「頑張ったね」「すごくよかったよ」などポジティブなメッセージを送る
つまりは、ちゃんと挨拶するような文化作りや、メンバーが一緒に食事に行くような文化作りが必要になってくるのです。
ストーリーテリング
皆が自分らしさを出せるような深い関係性を作るためには、自己開示が必須です。
作家のパーカー・パーマーはこのようにストーリーテリングについて語っています。
他の人の人生の旅について知れば知るほど、その人を疑いの目で見たり、嫌いになったりする可能性は少なくなる。
信頼を築くには、…お互いをもっと知ることだ。
パーカー・パーマー
したがっていくらボーリングイベントや飲み会を開催しても、昔やってたスポーツや好きな食べ物も知らないような表面的な関係性のままでは意味がありません。
日本人は自己主張が苦手なので、特に「長年一緒に働いてるけどプライベートは何も知らない」という状況になりがちです。
どんなにイベントを企画しても、言いたいことが言える環境になりづらいんですね。
自己開示の手法の1つとして、ストーリーテリング(物語を語ること)があります。
ストーリーテリング - 自己開示
ストーリーテリングの実施例として、米国のCC & Rでは、次のような施策を行なっています。
定期的に研修会を行い、そこでは1つの質問が投げかけられます。
そして各メンバーは2〜3分でそれに対して回答をするのです。
ストーリーテリング - Good & New
日本のオズビジョンではGood & Newという短期間のMTGを毎朝行なっています。
各チームで順番に発表し、仕事中やプライベートであった新しいこと、良かったことを共有するというものです。
こうした自己開示において注意しなければならないのは、話した内容を全て受け入れることです。
「それは違うでしょ」や「滑った?」というような負の反応を示してしまうと、反対に自己開示できない環境であることを意識づけてしまうだけだからです。
全メンバーが頼られる関係性を作る
一部の人のみが頼られるのではなく、全メンバーが頼られる関係性を作る必要があります。
これは頼るといっても、ただ仕事を押し付けるのではありません。
その人は他の人より良い仕事ができると合理的に判断した上で、その人を頼るのです。
そのためには「個々の得意なこと」や「苦手なこと」を良く知る必要があります。
しいては先ほどの「ストーリーテリング」に繋がってくる話でもあります。
EQをあげるための施策
メンタリング(1on1)を行う
「高いEQ」の要素の1つとして、感情のコントロールがあります。
ここで難しいのは、「感情を殺す必要があるのであれば、心理的安全ではない」ということです。
つまりは「不満を抱きながらそれを声に出さない」ということは言いたいことが言えていないのです。
そのため物事の捉え方から変えていく必要があるのです。
メンタリングとは、対話を通じて歪んだ認知を補正し、次の行動を促し成長させていく手法です。
負の感情や他者への攻撃は、ほとんどが歪んだ認知から引き起こされます。
例えば「あいつのせいで問題が起きた」と捉えてしまう人がいたときに、「本当にその人のせいなのか」疑問を呈し、そうでない場合正していく必要があります。
そして本当に相手の問題である場合、それを正しく当人に伝えられる環境が必要になります。
それには受け止める側が「自分の問題である」という事実を受け止める精神性も必要になってきます。
それが当人たちにできない場合、第三者がメンタリングという行為によって補正していく必要が出てくるわけです。
瞑想(マインドフルネス)をする
瞑想がEQをあげるという研究結果は無数にあります。
例えばハーバード大の研究結果によると、8週間の瞑想を続けた結果、他者に対して親切な行動をとるケースが3倍に増えたそうです。
実際にGoogleやインテル、ゴールドマンサックスなどでは、瞑想の研修が取り入れられています。
また朝会の前、会議の前に瞑想を行なっている企業もあります。
日本では「瞑想をやろう」とはなかなか言いづらいのかあまり事例は聞きませんが、科学的根拠のあるしっかりした方法であるのは間違いありません。
理念を定義する
米国のRHDやAES、FAVIといった企業たちは、チームにとって共有すべき理念を定義することで従業員の意識レベルを向上させようとしています。
- 人は皆、平等に尊い存在である。
- 人は明確にそうでないと証明されない限り、本質的に善良だ。
- 組織の問題にうまく対処する単一の方法はない。
- 「自分自身が常に正しいはずだ」という思い込みをやめ、他の人々の現実や考え方に耳を傾け、それらを尊重せよ。
- 思考と行動とを区別せよ。
恥ずべきスピーチと行動とは、他人の自尊心を傷つけ、人として価値が低いと暗示するような言動や振る舞いのことだ。そうした態度には悪口、嘲り、皮肉、あるいは人々を「貶める行為」などが含まれる。人が話しているときにジロジロ睨みつける、あるいはコミュニティの一員としてその人の重要性を否定するような行動をとる、などの態度をとって人を辱めることも受け入れられない。そのような敵対的な態度に遭遇した人は、それを一つの問題として表沙汰にする権利と責任がある。
これらはどれも自分の弱さが作り出す思い込みを踏みとどまらせる一文です。
例えば「業績があがらないのはあいつはやる気がないからだ」と思い込んでしまったときに、本質的に善良だと振り返ると「やる気ない」という発想に疑いの目が向けられます。
やる気がないというのは観測し得ないものを勝手に推測しているだけで、確かな事実ではありません。
「なぜ私は彼がやる気ないと思っているのだろう」と冷静に振り返ると、実は些細な出来事や思い込みが原因だったりします。
そして「自分がこの状況を解決するためにできることは何か」という軸で考えると、「あの日早く帰ったのはなぜ?と聞いてみる」といったような具体的な解決策に変換されるのです。
つまりこういった理念を明示化して全社員が心から求めることで、誤った思考の流れを矯正できるのです。
争いが起きた時の解決フローを規定する
米国サウンズ・トゥルーでは、難しいコミュニケーションに際してのプロセスを規定しています。
こうすることで、争いが建設的に解決するよう促していくのです。
- 私はこう感じています。
- 私はこれを必要としています。
- あなたは何が必要ですか?
採用する人を選ぶ
EQが高い人のみでチームを構成するためには、EQが高い人のみを採用するという方法も当然あります。
ただ採用にこだわりがちな人は、「私のチームの問題は、メンバーが悪いからだ」という思考になっている人が多いように思います。
自らの負の状況を、メンバーの問題に置き換えているのです。
もちろん数々の成功した企業が「採用は妥協するな」とうたっていることは間違いありません。
ですので「採用する人を選ぶ」は間違いなく良い手法です。
しかし、「心理的安全が確保されていないのは、本当にメンバーの問題なのか」については冷静に判断する必要があります。
組織の問題を、個々のメンバーの問題にすり替えてしまっているのであれば、いつまでたっても問題は解決しません。
おわりに
Googleも認めるように心理的安全性の力は強力で、ヒエラルキーを否定したティール組織やホラクラシー組織といった最近話題の組織形態も、この考え方を軸に構成されています。
一方で言いたいことを言いながらも建設的に前に進める環境というのはものすごく繊細で難しいものです。
事実、例にあげた企業たちは文化を変えていくにあたり「自分の感情について話すことなんてできない」と辞めて行った人たちが多くいたそうです。
とはいえ、様々な本を読んでも時流として社会全体がこの考え方に向かっているのは間違いありません。
時代の流れが早い今だからこそ、「新しい取り組みを続ける組織」と「昔ながらの価値観を保ち続ける組織」の差はどんどん広がっていくんじゃないでしょうか。